今日は検診日。看護師さんに、「診察前に体重を測ります」と突然告げられて動揺し、「こんな時に限って重たい生地のスカートはいてきてしもたやん」と後悔した。100gでも軽く計られたいのが人情。それはそれとして、彼女がたまたま私のジャケットの襟のピンバッチに注目。それは、青空の下の灯台を写したものなのだが、その灯台を彼女は知っているという。
「私出身がね」
「島根なんですか!」
「そうなんですよ。この灯台、石でできてるでしょう?実家が石を扱ってて」
「わかりますよ!灯台のふもとも歩きましたもん。うわ。めっちゃ奇遇。ほんまにものすごい奇遇。」
「ですよねえ。へえー島根までお仕事いかはるんですか?どんなお仕事してはるんですか?」
と会話は続き、二人で勝手に大興奮。島根の温泉の湯温が高いことにまで話は及んだ。さすがに彼女は勤務中、私は診察前なのでそこそこできりあげたが、ほとんど旧知の仲のように熱い目線を交わして互いの持ち場に戻った。
去年一昨年とダンスボックスのコーディネートで島根にアウトリーチに出かけた。その初年度、島根側のご担当の方が地元の観光にお連れ下さった時の灯台だ。こんなこともあるのだ。無意味に嬉しくなる。診察自体が念のための定期的なものなので、奇遇の余韻で足取りも軽く病院を出た。
私が住んでいるのは、昔チンチン電車が路面を走っていた街道沿いの、気の張らない町である。優しいおじいさんが趣味でやっているような八百屋さんが駅から自宅までの間にあって、仕舞うのが早いからたいていの帰宅時には閉店している。紫蘇を買ってみようと声をかけると「今日は無いんやわ」と申し訳なさそうな答え。おじいさんの視線の先には菊菜が何束か重ねてあった。「じゃあ菊菜で」。一束購入。近くの畑で採れたものらしい。献立を変更しよう。何の問題も無し。
菊菜と一緒に、島根県出身の看護師さんのことを思いながら家までの細い道を歩く。
これ以上無いというほど個人的な、でもささやかな幸せをかみしめる足音になった。
(茉歩)