数年前、日本の桜の名木の写真集を見た。その時、ある写真のページで目も手も止まってしまったことを、今でも鮮やかに記憶している。福島県中央部の静かな城下町、三春町の滝桜。滝桜とはよく称したものと、その流れ落ちるような咲きっぷりに惹きつけられたものだ。
今年の初雪を、その三春町で見た。アウトリーチ先は保育所。33人の園児たちと90分を過ごす。生まれてからの年数をまだ片手で数えることができる子たち。プレイルームの片側はほとんどがガラスで、外の景色が晴々と見え、子どもたちは意識していなくとも四季の移り変わりをその柔らかい肌から日々吸い込んでいる。
園児たちに対しては60分のワークということもままあるのだが、この日は90分。曇りのない瞳と心にこちらが励まされて、学齢以降にしか行っていないメニューも加えてみた。
ワークの終了後、園の給食のおすそ分けを、お尻がはみ出すような小さな椅子に座って頂く。事業担当の方と三人で、園長先生のお話を聞きながらのひととき。「あっ、雪!」とおっしゃったのは何処と無く乙女の面影を残すその先生だった。
帰阪のために郡山まで向かう車に乗り込む前、「また来てね」と駆け出して来てくれた子たちの、自分の手のひらにすっぽり収まりきる手のささやかな感触にどきっとする。どきっとしてそして、すぐに身体の奥の方が温かくなる。
この感触を、忘れたくない。と思う。これは本当のことだ。
(茉歩)
写真は別の場所で見つけた校庭の紅葉。町の人たちの目を楽しませている名所のようです。