ブエノスアイレス ニカラグア マラカトゥーラ。私がこれまでに買った珈琲豆の中で最も高い。爽やかな店員さんに勧められ、はずみと言おうか何と言おうか奮発して購入し、帰宅してからの楽しみにちょっとテンションが上がる感じだった。
なのに何とタクシーの中に置き忘れてしまったのだ。
気づいた時には呆然。自業自得とはいえ、あまりにもぼんやりしている。そんな時に限ってどこのタクシー会社なのか記憶もあいまいで、「黒っぽい車体だったよなあ。運転手さんは白髪混じりでふくよかで。。」と、あんまり手がかりにならないことばかり蘇る。
諦め切れない思いをほぼ一昼夜引きずって、結局交番へ届けることにした。調書を取ってもらい、問い合わせをかけてもらうと、それらしきものが拾得されているという。すんなり過ぎて、却って拍子抜けがした。
運転手さんありがとうございます。
「本署へ行ってくださいね。身分を証明できるものと、シャチハタじゃない印鑑もってね」。到着してみると、遺失物係の窓口は事情のありそうな人たちが集っていた。その件は届け出に該当しませんという説明を受けていたり、お礼に行かなければ罰があたると熱を込めて話していたり。
私の珈琲豆は、事件性からは程遠い。
育ててくれた人と収穫してくれた人と、日本に運んでくれた人と、勧めてくれた人と。買った人となくした人と取り戻した人と。
しばらくはこの豆を楽しむ。
初夏に勿来に行く事業が始まれば、また名店ブラウンチップのお世話になる。
(茉歩)